松永千鶴 (Ms Chizuru Matsunaga)
Australian National University (ANU)

以下は11月23日(祝)に開催した「オーストラリア留学出発準備説明会」での松永さんのスピーチです。
私は、今から8年ほど前の慶應義塾大学在学中に、交換留学生としてキャンベラにあるオーストラリア国立大学に1年間留学していました。今年は日豪交流年ということで、そのときの留学生活のエピソードや大学の授業で提出したエッセイなどをまとめた「コアラの国で寮生活」という本を日豪交流年のイベントとして、今年の9月に出版しました。もしご興味のある方は、紀伊国屋さんやアマゾンさんでも取り扱っていただいていますので、のぞいてみてください。
話は、変わりますが、今日はオーストラリアのおみやげで買ったブーメランを持って来ました。先住民のアボリジニが狩猟にブーメランを用いていたそうですが、これはお土産用でアボリジナル・アートが表面に描かれています。オーストラリアはブーメランの国と言われるのを聞いたことがあります。出て行っても、またブーメランのように戻っていきたくなる、そういう不思議な魅力がある国だと言われます。
実際私も、オーストリアが好きで、高校3年生の夏休みに初めてシドニーに旅行してから、大学2年の夏休みには語学留学、そして大学3年の時には交換留学をしました。一番最近では、去年のクリスマスにケアンズに旅行しました。ブーメランのように行き来を繰り返していますが、私にとって第二の故郷のように親近感を感じる国です。
私にとってオーストラリアの何がそんなに魅力的なのかと考えますと、とにかく暮らしやすい環境にあると思います。留学中は1年間大学の寮で500人もの学生と暮らしていたのですが、オーストラリア人は廊下ですれ違うだけでも、フレンドリーに「グッダイ」「ハウズ・イット・ゴーイング」と気軽に声をかけてきてくれます。とてもフレンドリーなのですが、けっしてずうずうしくなく、人のプライバシーに踏み込んでくるようなところなかったので、寮はとても生活しやすい空間でした。マナーをわきまえていて、紳士的な一面があるというのが、私のオーストラリア人の印象です。
留学前は、友達ができるかどうかという不安はすごくありましたが、最初に日本語を勉強しているオーストラリア人の学生が声をかけてくれました。些細なきっかけでしたが、自信が出て、寮で毎日顔を合わせる学生から友達になって行きました。
オーストラリア人の人柄のよさのほかに、暮らしやすさの理由は、アジア人の移民や留学生も大勢いるので、日本人でも違和感なく、生活に溶け込めることだと思います。寮には、地方に住むオーストラリア人のほか、欧米各国、アジア各国からの留学生が住んでいましたが、みんながいっしょに料理をする共同キッチンは、異文化交流の格好の場でした。
イタリア人にピザの焼き方を教わったり、韓国人にキムチのつけ方を教えてもらったりと、キッチンで過ごすのが私は好きで勉強をしていないときは、ほとんどキッチンに入り浸っている状況でした。テレビを電気屋さんや中古市で買って自分の部屋においている学生もいましたが、私はテレビを買わずに、寮生が集うコモン・ルームで見ていました。結果として、部屋の外で過ごす時間が増えてよかったと思います。
キッチンでは、日本食を作ると喜ばれるので、日本食の料理の本を持って行ったのが大正解でした。パーティーなどがあると、アボカドとサーモンでカリフォルニア・ロールという巻き寿司を良く作ったりしました。日本だと100円ショップなどにもお寿司をまくための巻き簾が売っているので、もって行くと役立つかもしれません。
寮には、多くの国から留学生が集っているので、そこには地球の小さい「縮図」のようなものがありました。大学を卒業してから私は、フォーブス日本版というアメリカのビジネス誌の日本語版の編集部に3年間勤めたのですが、いろんな国の記事を読むときに、その国の人の生活を少しでも知っていることで、国際的なニュースでも身近に感じることができるようになりました。例えば、最近の韓国の大学受験のニュースを聞くと、ソウル大学から来ていた優秀な留学生の顔が思い浮かんだりします。今でも、フリーで同じ雑誌の編集の仕事を続けていますが、わからない人名などがあればメールで留学していた頃の友人に聞けるので、世界にネットワークを作るという意味でも、かけがえのない留学生活でした。
皆さんの中には来年オーストラリアに向けて出発される予定のかたもいらっしゃるそうですので、今日は、日常生活と大学の授業の二つに大きくにわけて、準備しておくといいものをアドバイスさせていただきたいと思います。
ます寮生活では、最初のオリエンテーションの時には、パーティーが連日催されます。先輩のシニア・レジデントが新入生の面倒を見てくれるので、安心でした。最初はそのシニア・レジデントの部屋でフロア・パーティが開かれ、寮の同じフロアに住む人を知るために、自分のお隣さんを紹介するたこ紹介をするゲームなどをしました。日本でも「トリビアの泉」というテレビ番組が最近まで人気でしたが、トリビア・ナイトといって、「寮には何箇所トイレがあるか?」とか「何人学生が住んでいるか?」などの雑学クイズなどをやるパーティーもありました。初めのうちは、オージー・イングリッシュに慣れていなかったのでネイティブの速さについていけず、愕然としたのを覚えています。
授業でも初めは、聞き取りができないので、教授に録音していいかを確認して、テープレコーダーに授業を録音していました。断りを入れれば、快諾してくれる教授が多いので、かさばらないこのようなICレコーダーなどを持っていくことをお勧めします。新学期が始まるオリエンテーションの期間には、専攻を決める前に実際に先生の授業を聞いて回ることもできたので、私は最初の学期はなるべく聞き取り易い先生の授業を取るようにしました。
パーティーの話に戻りますが、パーティーによっては、女性はドレス、男性はスーツ着用というフォーマルなものもあるので、持っている人は一着持参するとあわてずにすむかもしれません。現地の学生にドレスを借りる人もいましたが、背の高い人が多いので、なかなかサイズが合う人を見つけるのは難しいかもしれません。
インターナショナル・パーティもあるので、私は浴衣を持っていって良かったと思います。キャンベラの町で、マルチカルチュラル・フェスティバルがあったときには、私は浴衣で町に出かけて、盆踊りを踊ったこともあります。簡単な浴衣の着付けを母に即席で習っていったので、役立ちました。柔道や空手も人気があるので、胴着を持っている人は持っていっても役立つかもしれません。現地の学生に着せてあげても喜ばれます。そのほかに、折り紙も人気でどこでも気軽に教えて上げられる日本の文化なので、もって行くと重宝すると思います。
授業で用意すると便利なのは、さっきも言いましたが、テープレコーダーと、あと電子辞書があると便利です。かさばらずに、授業中にさっと引くのに便利でした。結構リーディングの文献に出てくる用語が難しいので、収録語数の多い電子辞書があったほうが、絶対いいと思います。「リーダーズ」と「リーダーズプラス」は今でも英語の記事に読むときに使っていますが、専門用語が収録されているので、私の個人的なお勧めです。試験によっては、電子辞書を持ち込めないものもあるので、普通の紙の辞書も必要です。
授業で戸惑ったのは、やはりチュートリアルでの発言がむずかしいということでした。オーストラリアでは、レクチャーといわれる講義のほかにチュートリアルという少人数のディスカッションの授業があります。発言をしようと思っても、英語で話を聞き取って、それを頭の中で日本語に訳して、自分の意見を英訳しているうちに、次の議題に話が移ってしまうということが何度もありました。先輩留学生のアドバイスでは、「ディスカッションが始まる前に、自分の意見を一番に発言してしまうのがいい」と教えてくれましたが、発言のタイミングが難しいので、私は、文献を読んで分からないところをメモしておいて、その文献について誰かが発言しているときに、「私もその論文に興味があるんですけど、この論文のここがわかりません」と質問をするような形をとりました。
プレゼンテーションも最初のうちは、ポイントをつかむことができず、何度もチューターの先生のオフィスを尋ねました。大抵のクラスには、レクチャラーとチューターの先生がいて、チューターの先生は生徒の相談に気軽に乗ってくれるので、どんどんオフィスを訪れるといいと思います。ただ、英語の質問は、専門分野の先生ではなく、スタディスキルズ・センターの先生が親切に応えてくれますし、エッセイの英語も見てくれるのでとてもお世話になりました。
とにかく、留学してみて思ったことですが、ダメかもしれないと思うようなことでも、割とオーストラリアの先生は、柔軟に対応してくれるので、自分の勉強したいことや希望があれば、なんでも主張してみるのがいいと思います。
オーストラリアに留学して一番の魅力は、オーストラリア人学生はもちろん、世界中の留学生たちと勉強することで、勉強の場自体が多様性を持っているので、生徒一人ひとりの発言から、それぞれの文化の違いや考え方の違いが学べることだと思います。その分、日本のことについてもきかれるので、自分が選考する分野の文献や資料なども少し持っていくといいと思います。また日常生活でも日本について質問される機会が多いので、私は、「日本文化を英語で紹介する辞典」という本を活用しました。
私は、同質性が重んじられる日本の社会と比較して、多文化主義を取るオーストラリアでは、異質なもの、異なるものがどうのように扱われているのかを学ぶために、文化人類学の授業や異文化間コミュニケーション授業を受講しました。一番印象に残っているのは、法学部のアボリジニの学生に出会い、「アボリジニには自分の民族の慣習法があるのに、アングロ・サクソン系のオーストラリア人の法律で裁かれてしまっているのが問題です」と語ってくれたことです。アボリジニというと、美術や音楽などの側面ばかりが前面にでてきますが、その奥には、アボリジニの声を代弁できる弁護士の不足という問題などもあることが学べてとても有意義でした。多文化主義を取る国で暮らすと、いろんな側面から物事を見る視点が学べるのではないかと思います。
最後になりましたが、私は留学中に弱気になったときに、いつも自分に言い聞かせていたのは、「これは自分がつかみとった留学のチャンスなんだ」ということです。オーストラリアに生息するカンガルーもコアラも前にしか進めず、後ろへは進めない動物と言われます。みなさんつかんだチャンスを最大限に生かして、前向きに楽しんで、またオーストラリアに帰りたいなと思えるような思い出をたくさん作ってきていただきたいと思います。